Kobayashi Law Office


                         

★ コラム

2017.11.30
~改正個人情報保護法(平成29年5月30日全面施行) 適用範囲が拡大されました。~

 平成27年9月に成立した改正個人情報保護法が、平成29年5月30日に全面施行されました。
 個人情報保護法とは、個人情報を業務として利用している事業者等が守るべき義務を定めた法律で、例えば、個人情報を取得・利用するときは利用目的を特定しなければならず、個人情報の目的外利用をしてはならない(業務のために収集した個人情報を業務と関係の無いSNSに投稿する、など)、個人情報を第三者に提供するときは、原則として本人の同意を得なければならない、情報漏れや情報の滅失を生じさせないように安全管理措置をとらなければならない、といった義務が定められています。各義務違反があれば、個人情報保護委員会による勧告そして命令の対象となり、命令に従わない場合は罰則も定められています。
 改正のポイントはいろいろありますが、多くの事業者(法人、個人を問いません。以下、同じです。)に影響を与える項目があります。それは、これまで、取り扱う個人情報数が5,000件数以下である事業者は規制の対象だったものが、改正により件数要件が撤廃された点です。事業を営んでおられて他者の個人情報を取得することがない、という方はほとんどおられないと思われますので、事業をされている方は、ほぼ例外なく、個人情報保護法の規制を意識しなければならなくなりました。
 インターネットを通じたコミュニケーション手段の急速な発達に伴い、各人が持っている他人の個人情報を広い範囲に公開することが極めて容易になっています。故意的なケースだけでなく、誤操作によってもあっという間に個人情報は拡散されます。そのような時代の流れを踏まえ、少なくとも個人情報を業務として管理する事業者には、個人情報保護の姿勢を徹底させよう、という趣旨であろうと思います。
 事業者としての具体的方策としては、ホームページ等におけるプライバシーポリシーの公開、契約書等のフォーマットへの記載、情報管理体制の確立、個人情報保護法違反案件に対する個別対応等が想定されます。これまで意識してこられなかった事業者の方におかれ、気になることがございましたら、何なりとお問い合わせ下さい。また、個人情報保護法改正のポイントは、個人情報保護委員会事務局においてもインターネット上で公開しているようですので、そちらもご参照していただければと存じます。
2017.04.24
~これくらいは大丈夫? -刑事編- ~

 弁護士の取り扱う事件は大きく分けて民事事件と刑事事件があります。当事務所では、割合的には民事事件の取扱いが多いのですが、常時一定数の刑事事件も取り扱っており、刑事判例の動きについても興味を持って注視しています。本コラムでは、最近報道された2件の判例を紹介します。
 平成29年3月8日、名古屋地方裁判所一宮支部において、ポケモンGO(スマートフォンの位置情報サービスを使って架空のモンスターの収集等を楽しむゲーム)をしながらの運転で男児をはねて死亡させたとして、自動車運転処罰法違反(過失致死)に問われた被告人に対し、禁固3年の実刑判決が言い渡されました。トラックを運転中、助手席に置いていたスマホに表示させたゲームに気をとられ、横断歩道を渡っていた小学4年生の男子をはね、出血性ショックで死亡させた事案で、「自動車運転に全く必要のないゲームをして最も基本的な前方注意義務を怠り、過失は非常に悪質」と判断されました。量刑理由の詳細までは検討し切れていませんが、実刑判決という結果を踏まえると、「ながら運転」に対する社会的非難の度合いは強くなっていると考えるべきでしょう。
 次に、新たな技術を用いた捜査手法に対する最高裁判例が出たところですので紹介します。平成29年3月15日の最高裁判決において、警察が、裁判所の令状を取らずに、連続窃盗事件の捜査対象者の車両にGPS(全地球測位システム)端末を取り付けて追跡捜査したという捜査手法につき、違法と判断しました。憲法35条では、裁判所の令状がない限り自宅を捜索されたり所持品を押収されたりしない権利が保障されていますが、GPS捜査は公権力によるプライバシー侵害にあたり、憲法35条により令状が必要とされる強制捜査にあたる、と判断したものです。憲法は、疑わしいというだけで令状無しにフリーハンドで個人の位置情報を網羅的に取得することまで認めていない、ということです。ただ、組織的犯罪等、追跡捜査が困難な犯罪に対してはGPS捜査が不可欠との声もあり、今後、立法上の手当がなされることが予想されます。捜査の必要性と個人のプライバシー保護とのバランスがポイントになると思いますので、興味を持って見守っていきたいと思います。
 今回紹介した2つの判例は、いずれも、「これくらいは大丈夫だろう。」という行為者の判断に対し、行為者の見込みと異なる結果が出た事例といえます。目先の楽しみや必要性だけにとらわれるのではなく、常に物事の全体像を客観視して、バランスを保つことが大切だと痛感しました。
2017.01.31
 平成25年から大阪大学大学院高等司法科(ロースクール)で非常勤講師を務めておりました。担当は「民事模擬裁判」です。裁判官1名、弁護士2名の3名態勢で9月から始まる後期授業を受け持っていました。
 民事裁判事件を進めるにあたっての弁護士としての心構え、裁判所からみた民事手続、民事裁判手続の内容等を講義し、訴状等の法律文書の起案を提出させ、最後には学生全員で配役を決めて尋問(テレビや映画でおなじみの証人尋問をイメージしていただければ分かりやすいと思います)を行います。
 法科大学院の最終学年である3年生の授業ですので、次の5月には司法試験を控える学生が受講生です。講師としては、司法試験を合格した後の実務をイメージしていただきたいと工夫を凝らすのですが、授業の開講当初は、目前の受験勉強には役立たないと感じるのか、やる気を見せない学生も少なからずいます。
 それでも、授業を進めるにつれ、座学だけではない実務の面白さに興味を持ってくれる学生が増えてきます。原告役、被告役に別れて各グループで尋問の準備をする際は、それぞれ原告代理人弁護士、被告代理人弁護士になりきり、想像力を働かせ、相手を負かしてやろうと入念に準備をしてくれています。
 フィナーレは、午後いっぱいの時間を使った尋問手続です。私たち講師陣は裁判官役となり、学生達の尋問を見守り、最後に判決を出して終わります。他の授業や受験勉強で忙しい中でも弁護士になりきって半日を過ごした学生の顔には満足感が浮かんでおり、こちらも胸が熱くなります。
 昨今、弁護士人口が増え、弁護士も就職難に遭っていると耳にします。私自身、いつか仕事がなくなるのではないかとの不安がゼロになる日はありません。しかし、司法試験に受かりたいと真剣に考え、目標に向かって一生懸命取り組んでいる学生達を見ると、熱意のある優秀な学生に弁護士を含めた法曹の世界を目指して欲しいといつも思います。紛争を解決する弁護士という職業が機能するには、弁護士が、市民の方々に信頼される職業であり続けることが最も大切であり、そのためには、法的な論理的思考能力だけでなく、倫理観、責任感、社会性等も併せ持つ優れた人材に目指して欲しいと思うからです。 
 もちろん、優秀な人材が多く弁護士になるということは、自ら自己研鑽を怠るとたちまち第一線からおいていかれてしまいます。このようなことにならないためにも、学生のような初心を忘れず、自己研鑽にも努め、これからも弁護士業を続けていきたいと思います。